山形国際ドキュメンタリー映画祭2011、感想
昨晩は眠たくて書けなかったので、山形国際ドキュメンタリー映画祭で見た作品の簡単な感想を。(順番は見た順番)
8日
『監獄と楽園』インドネシア・バリ島での爆弾テロをめぐる作品。この作品のすごさは、テロ事件の犯人達に監獄内で取材していること。彼らがテロに向かう考え方が分かる。刑務所での取材が基本的に出来ない日本だとこういう作品は作れないな、と思ってみていた。(だからこそ、日本でも見てみたいのだけど。)もうひとつは、テロ事件の犯人の子ども、被害者の子どもを映し出す。決して洗練されていない、ごつごつした作品だけどこういう作品は好きです。
『隣る人』若くて大活躍中のプロデューサー、大澤一生さんがプロデューサーと知って見に行った。児童養護施設のドキュメンタリー。施設職員と児童の関係がとても丁寧に描かれている。端正な作品。
『飛行機雲(クラーク空軍基地)』フィリピンのクラーク空軍基地跡の土壌汚染について描いた作品。4時間もあるけど、題材に興味があったので見た。よくなかった。被害者の描き方も中途半端だし、なぜだか風景のカットはきれいなのだけど、人が出てくるシーンに力がない。また、アメリカによるフィリピン侵略史が随時挿入されるのだが、この構成はやり過ぎだと思った。土本典昭監督に捧げられている作品だがそれも少し空しい。どっと疲れた。
『遊牧民の家』とてもポエティックな作品。シナイ半島ベドウィン女性たちを描く。(監督も女性。)幻想的で詩的な描き方で、フェミニズムの萌芽を切り取っている。僕の中では可もなく不可もなく。
9日
『よみがえりのレシピ』監督の渡辺哲史さんを知っているので見に行った。2年ほど前から出身地である山形に東京から帰り、一から製作費員会を立ち上げて製作を進めていることを知っていた。だから見たかった。この日が初上映。傑作だと思います。日本に古くからある在来作物をめぐる作品。農作物も一種、工業化されていてスーパーなどで売れない品種は栽培されなくなっている。この映画では山形県で細々と在来品種を栽培している様子が映される。同時に、この作物の特徴に注目した漬物屋、イタリアン料理のシェフの姿も。とにかく、出てくる人たちがみんないい笑顔をしていることが気持ちいい。と同時に、食や日本の文化を深いところで考えさせてくれる。映画の作りとしてはオーソドックスだけど、とかく基本を無視した若手の監督が多い中で、基本をしっかりと押さえながら作っている渡辺監督のような人はとても貴重だと思います。山形では11月5日から公開。全国公開を期待。絶対、大ヒットします。
『龍山(ヨンサン)』2009年ソウル市ヨンサン地区の再開発をめぐって、住民と警察が衝突。5人が火事で亡くなった。この事件についての作品。事件のことは知っていたので見に行った。映画で事件の背景など知れるか、と思っていたのだがあまりそういう作品でもなかった。監督は1981年の光州事件などにも遡り、自分が運動に関われなかったことを内省的に語る。ふと、日本の70年代を想起した。
『ソレイユのこどもたち』多摩川下流で水上生活をする人のドキュメンタリー。坂口恭平さんから水上生活している人の話を聞いたことがあったので、ぜひ見たかった。いい作品だった。出てくる人の強烈なキャラクターと水上生活の様子が淡々と描かれる。淡々としてはいるが映画ならではの表現に昇華している。
『けの汁』『フレーフレー山田』『東北芸工大3.11』今回の山形国際ドキュメンタリー映画祭で重要なプログラムは東日本大震災復興支援プログラムだろう。僕はあまり見なかったのだが。先に書いた3本はこの枠で上映されたもの。『けの汁』はあおもり映画祭からのエールとして上映された劇映画。「けの汁」とはつがるの郷土料理だそうだ。主演は青森県出身の三上寛。『フレーフレー山田』僕にとって今回山形で見た中で最大の問題作。(冗談です。)以前から交流のあった岩手県山田町を法政大学応援団が訪問する。久しぶりに法政のいろんな応援を聞いた。いまだに校歌を口ずさめる自分って・・・。(でも、今の法政大学は嫌いです。)『東北芸工大3.11』は、短編(3分11秒)9本の劇映画。学生作品。いかにも学生が作った映画の雰囲気に少し気恥ずかしくなった。
『バシージ』バシージとはイランの市民兵組織のことだそうだ。監督はイラン出身で現在はフランス在住。映画は冒頭、イラン・イラク国境の荒涼とした、だけど観光客が絶えない不思議な景色を映し出す。ここで語られるのは殉教者の話。ここでの語り部でバシージのメンバーを中心にイランの政治について語られる。監督は何度もイランの抑圧体制について対話を試みるがうまくはぐらかされてしまう。このはぐらかされる様から逆にイランが浮かび上がってくるようだ。「対話」が今回山形で見た作品のキーワードだったことを後で気づいた。
10日
『仙台短編映画祭3.11『明日』』仙台短編映画祭が3.11をテーマに製作したオムニバス映画。参加監督数はなんと41人。ほとんどが劇映画。で、僕は映画を見ながら、フィクションを想像・創造する力が3.11後、何か大変やっかいなことになっているんじゃないか、と感じてしまった。各々の作品の完成度・アプローチは千差万別なのだけど、どこか心に響いてくるものが乏しい。各短編は直接3.11には触れていないものも多いのだけど。そういう自分も3.11をテーマに短編を作らなければならず、いまだ煮え切らず・・・。
『殊勲十字章』おおざっぱに書けば、ベトナム戦争についての映画。冒頭数分を見逃した。映画はベトナム戦争について語る父の話を息子2人が聞いている様子が中心。父の話は戦場のリアルを感じさせはするものの映画としてはそれほどいいとも思えなかった。
『ネネット』日本でも多くの作品が公開されている、ニコラ・フィルベール監督の作品。ある意味、僕が今回山形で見た作品の中で、究極の1本だった。なぜなら、70分の上映時間、人が全く映らない。(正確には3カットだけ人らしき姿が見えるが。)画面はひたすらオランウータンのネネットを映す。かと言って、最近はやりのネイチャー映画でもないし、ましてや日本のテレビ番組のようでもない。ネネットは40歳のお婆さんなので、動きも緩慢だし、ぼうっとしてるシーンがほとんど。では何が「映画」にしているかと言うと、ネネットを見る客の声、飼育員のインタビューなどが音声として聞こえてくるからだ。面白い、のかどうか僕は判断付きかねている。
『川の抱擁』コロンビア・マグダレナ川をめぐる作品。映画は前半、川の精霊・モハン(日本の河童みたいに思えた)について語られる。民俗的な映画なのかと思っていると、後半、川を流れてくる死体の話になる。日本で言えば(さすがに殺すことはまれだったが)、バブル期の地上げのように、村から住民を追い出すために次々と人が殺されているようだ。川で死体を見た話を淡々と語る様子は怖い。ただ、僕としては語りだけでなく、過酷な現場にもカメラを向けられなかったのか、とも感じた。(映画はとても美しいのだけど。)
『城壁』日本でも多数の作品が公開されている、アトム・エゴヤン監督(今回、山形映画祭の審査員)のプライベート色の強い作品。監督の妻が20数年ぶりに故郷・ベイルートに帰郷する時に同行。映画は未来の息子へのビデオレターとして語られる。妻の懐郷から徐々にベイルートの内戦の様子が浮かび上がってくる。軽妙なナレーションもあって面白く見られるが、でも、やはり作品としての強度はそれほどでもないな、と思った。
長々と書きましたが、僕の私的な感想です。