2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

2011/6/30 木曜日

『はだしのゲンが見たヒロシマ』

今日は午後から『はだしのゲンが見たヒロシマ』(監督:石田優子)というドキュメンタリー映画の完成試写会に行ってきた。監督の石田さんは初監督作品だそうだ。本作は漫画「はだしのゲン」の作者である、中沢啓治さんのインタビューを中心に、中沢さんの被爆体験を描いた作品。ここでいきなり、脱線するが、僕は子どもの頃、あまり漫画を読んでいないので、「はだしのゲン」も部分、部分しか読んでいない。僕の中の「はだしのゲン」体験は、漫画を元にした実写映画を子どもの頃見たことだ。(その後見ていないのでなんとも言えないが、多分、第2部だったと思う。)自分では対して見たくなかったが、父親に強引に連れて行かれたことを覚えている。それでも、ストーリーはすっかり忘れたが、原爆の恐怖をトラウマのように刻まれた体験だったことだけは覚えている。で、僕自身は漫画史などはよく知らないのだが、今日、ドキュメンタリーを見てあらためて気付いたのは、僕の中で勝手に「はだしのゲン」はかなり古い漫画だと思っていたことだ。(今の子どもから見れば古い漫画になるのだろうけど。)漫画の連載が始まったのが、1973年とのことなので、敗戦後28年が経っていたことになる。(どういう経緯で「はだしのゲン」を書くことになったかは、本作で中沢さんの口から語られている。)なぜこんなことを書いたかと言うと、「はだしのゲン」の生々しさが、勝手に戦後すぐに書かれたような印象を抱かせた、のだと思う。逆にいえば、28年経っていたからこそ、生々しく描けた、ということもあるのかもしれない。もう一つ、本作を見て気づいたのは、漫画好きの人にとっては常識なのだろうけど、「はだしのゲン」の絵のタッチは意外と劇画タッチだと思った。特にそう思ったのは、中沢さんが初めて原爆のことを描いた「黒い雨にうたれて」(1966年)は殺し屋が主人公ということもあって、ふっと「ゴルゴ13」を思わせるような(実際は、「ゴルゴ13」の方が後なのだけど)タッチも感じた。漫画に詳しくない僕がなんでこういうことを書いたかと言うと、本作では中沢さんの漫画の原画が撮影されていて、印刷前のさらに生々しいタッチを大きな画面で見ることが出来たこともある。もっとも映画としては正直少し物足りない感じもあったのだが、とかく被曝者の方たちが高齢化し記憶の風化が危惧されている昨今、中沢さんの体験にじっくり耳を傾けることは貴重な機会になると思う。そして、原爆と原発は同じ技術から派生した双子のようなものなので、3・11後の放射能時代を生きる今、8月6日も昨年までとは違った気持ちで向き合うことになるのだと思う。

未分類 — text by 本田孝義 @ 22:32:14