メイシネマ祭’11
今やゴールデンウィーク中の”下町のドキュメンタリー映画祭”としてすっかり定着した感のある、メイシネマ祭。昨年が大きな区切りの20年ということで、今年はついに21年目に突入。代表は燃料屋さんの藤崎和喜さん。僕はこの上映会で何本映画を見てきただろう。こうして、こつこつと上映している方がいるからこそ、僕のような製作者にとってもとても励みになる。今日は2本のドキュメンタリー映画を見た。1本目は『うつし世の静寂(しじま)に』。(監督:由井英)舞台は川崎市。川崎市と聞くと、僕などは新興住宅地、あるいは工業地帯という浅いイメージしかないのだけど、この地にも昔ながらの伝統が今でも息づいていることを丁寧に描き出した作品だった。題材はとても興味深かったのだけど、僕の感覚では、少しばかりナレーションが多いように思った。「あまり知られていないことを伝える」という意識が強いと一歩間違えば「教えてあげる」になりがちで、僕のようなひねくれた人間はつい反発してみたり。2本目は『南回帰行 橋本梧郎と水底の滝・第一部』(監督:岡村淳)。もしかすると、今、最も多作な日本人の(岡村さんはブラジル在住だけど)ドキュメンタリー映画の監督は、岡村淳さんかもしれない。ご本人も今日おっしゃっていたが、ゴールデンウィークに来日されて、ここメイシネマで新作を上映するのがもはや風物詩みたいになった。今作は過去に2本の作品でも主人公だった、博物学者・橋本梧郎先生(当時95歳!)の「最後の旅」を描いた作品。岡村さんの映画の大きな特徴・魅力は、岡村さんがカメラを回しながら大きな声で質問したり笑ったり、作り手の反応が見えること。僕は通常、カメラ越しの製作者の声と言うのはあまり好きではないのだけど、なぜか岡村さんの声は気にならない。いや、むしろ今や「芸」にすらなっているようにも思う。本作では、橋本先生と連れ合いの女性(名前失念)との関係や橋本先生の頑固さ、あるいは昭和天皇との複雑な関係など今まで以上にパーソナルな部分が伺える作品だった。全3部作の予定だそうで、早く2部・3部も見たいと思った。今日、あらためて思ったのだけど、これまで多くの作品を拝見して、フィルモグラフィーの分厚さにはブラジルに渡った日本人の大きな大きな歴史が見えてくると思う。それはすごいことだ、と思う。