2008年春、渋谷ユーロスペースにてレイトショーされる
映画『船、山にのぼる」の監督・本田孝義のブログです。

本田孝義

2010/10/6 水曜日

『アイ・コンタクト』

世の中には不思議な偶然というものがあるものだ。本題に入る前置きが長くなるが書いておこう。一昨日、you tubeで『船、山にのぼる』の予告編を見た人からコメントが書き込まれた。所々、間違った日本語があったので、変だなと思いつつ投稿者のページに行ってみると、ロバート・ホスキンさんからだった。僕の初めての長編ドキュメンタリー映画は『デフ・ディレクター~あるろうあ者の記録~』(1995年)という作品なのだけど、その主人公がロバートさん。彼はオーストラリア出身のろう者で、日本人のろう者靖子さんと結婚して日本に住んでいた。とても映画が好きで、わざわざ35mmフィルムのカメラをアメリカで買って、日本で映画を作ろうとしていた。僕のドキュメンタリー映画は、言わば彼の映画製作を描いた、一種のメイキングだった。スポンサーもない、自主制作で35mm映画を作るのは無謀だと思ったが、彼はフィルムにこだわり、短編ではあるけれど何本か映画を作った。ある時から彼と会わなくなってしばらくして、奥さんとオーストラリアに帰った、と人づてに聞いていた。その彼から本当に久しぶりにコンタクトがあって驚いたのだ。そんなことがあった後、今日、『アイ・コンタクト もう1つのなでしこジャパン ろう者女子サッカー』というドキュメンタリー映画を見た。4年に一度開催されるデフリンピック(聴覚障害者のオリンピック)に出場した女子サッカーチームのドキュメンタリー。映画の前半は、彼女たちや両親たちのインタビューから、耳が聞こえないこと、ろう教育のこと、サッカーへの思いなどがテンポよく描かれていく。その中では、メンバーのバックボーンの違い(両親がろう者か聴者かという違いは大きい)なども分かってくる。僕は最近全然手話を使っていないので、ほとんど忘れているに等しい状態。ろう学校では口話教育が主で、近年やっと手話教育も行われるようになった、というあたりは知らない人にとってはやや分かりづらいかもしれない。そして、後半は台湾で行われたサッカーの試合。最初の2試合苦戦。タイ戦で初勝利。そして、最後のデンマーク戦。僕はこの最後のクライマックスで少しがっかりしてしまった。映画は演出として「無音」になるのだ。「聞こえない」戦いの表現として。人によって考え方は違うと思うけど、僕は『デフ・ディレクター』を作っていた時は絶対「無音」だけは使うまい、と思っていた。その理由を論理的に説明するのは難しいのだけど、多分、僕にとってのモラルみたいなものだったのだろう。僕の考えが正しいわけでは全くない。ただ、僕はこの映画の「無音」が嫌いだった、というだけだ。全体として面白い映画だったのだけど、その点だけが残念だった。

未分類 — text by 本田孝義 @ 22:47:59