「昭和16年の敗戦」
僕は太平洋戦争の話を聞くたびに、なぜ、日本はアメリカと戦争をしたのかがどうしても分からなかった。もちろん、当時の世界的な政治情勢などはそれなりに理解しているつもりだけど、疑問だったのは当時の国力としてはアメリカの方が強大だったわけで、精神論は別にして、国力の差を冷徹に比較検証した人はいなかったのだろうか、という疑問があった。その疑問に答えてくれたのが、猪瀬直樹著「昭和16年の敗戦」だった。最初の刊行が1983年で、最近、中公文庫で再刊になった。僕はこの本の存在自体を知らなかった。本書は昭和16年(1941年)に設置された総力戦研究所の実態を克明に描き出した力作だ。同時並行で当時の政府の動きも重ねて描かれる。総力戦研究所とは、軍事力だけではなく経済力・思想戦など多角的に戦争を研究するために作られたそうだ。集められたのは30代前半のエリートたち。軍から各省庁から民間まで約30名。そして、彼らは対アメリカ戦の机上演習において、開戦4か月前、「日本必敗」の結論にたどりつく。しかし、彼らの報告は現実の政治には反映されなかった。こうした事実を知ることが出来てとても有益だった。