「虐殺器官」
時々作者の名前と高評価を聞いて、本当かいな、と思い、はたまたホラーを思わせるタイトルや黒々とした表紙に引いてしまったのだが、ふとSF小説が読みたくなり、「虐殺器官」を読んでみた。確かに面白い。9・11後の世界情勢を如実に反映しつつ、近未来の戦争を描いている。戦争の民営化はノンフィクションでもいくつも書かれているところ。本書は民族紛争を煽る「言葉」と民衆の反応(これがタイトルにもなっている。ホラーではなかった・・。)を縦糸にしている。読んでいて興味深いのは自分語りを中心にした、少し抒情的とも言えるような書き方が、ハードな設定の中で不思議な余韻を残す。作者の伊藤計劃という方は34歳という若さで昨年3月に亡くなったそうだ。またいつか、残された作品も読んでみたい。