『月に囚われた男』
最近、どうもSF映画を見たいモードが膨らんでいる。そんなところへ、興味深いSF映画があったので、見に行った。見たのは『月に囚われた男』。SF映画と言えば、最近、とかく賑やかな映画ばかりだが、本作は月基地に一人でいる、という設定からして、地味であるし、場面の多くは基地内なので静かなものだ。それでも、いい短編SF小説を読んだような、これぞSFと言いたくなる、そんな映画だった。監督のダンカン・ジョーンズが自ら書いているように、いくつかのSF映画にオマージュをささげたようなシーンも多々あり、新しいことはほとんどない。それでも、昨日書いたことと矛盾はするが、僕は楽しんだ。月基地でもう一人の自分を見つける、という設定を聞いた時は、『惑星ソラリス』のような幻影なのかと勝手に思っていたら、映画の後半ではクローンの話になり、「オリジナルな自分って何?」という、SFではよく出てくる哲学的命題に向かいつつ、サスペンスとしても緊張感途切れることなく最後まで見ることが出来た。個人的にうれしかったのは、月面のシーンが今や懐かしくもある、模型特撮だったこと。やはりCGよりはいい。もうひとつは、基地のプロダクション・デザインが特に優れてはいないが、十分説得力があったこと。(このデザイン自体もいくつかの映画の影響を意図的に取り込んでいる。)低予算の映画、と言われているが、日本で考えればそんなに安くもない。こういう説得力あるセットにはそれなりにちゃんとお金をかけていると思う。