今日から東京では藤本幸久監督の新作2本『アメリカ―戦争する国の人びと―』と『ONE SHOT ONE KILL 兵士になるということ』のマスコミ試写が始まった。せっかくなので、今日、見に行った。
『アメリカ』は前にも書いたように8時間14分の超大作。全部で8部構成になっていて、①高校、②イラク戦争、③戦死、④先住民、⑤見えない人々、⑥ベトナムの記憶、⑦抵抗、⑧それぞれの春と、いうエピソードタイトルがついている。実は、正直言って、見る前はしんどいなあ、と思って見始めたのだが、いざ見始めると語られる内容の重さもあって引き込まれてしまった。語られる話は劣化ウランによる被爆、戦死者の遺族、精神的な病、帰還兵のホームレス化などヘビーな話が続く。そうした話を聞きながら、僕はアメリカが内部から崩壊していっている光景を見ているような錯覚を覚えた。(もちろん、アフガン戦争、イラク戦争ではアフガニスタン、イラクは物理的にも崩壊したわけだが。)戦場は遥か彼方にありながら、「銃後」であるはずの社会も戦場だった、とでも言うか。そうした中でかすかな希望がいくつも出てくる。戦争に反対している人びと、イラク派兵を拒否した軍人などの姿だ。特に感動的だったのは、ワタダ中尉のインタビューと講演。将校として初めてイラクへの赴任を拒否したとしてニュースでも取り上げられていた人だ。彼の考え方が実に聡明で、「兵士は合衆国憲法に忠誠を誓う。大統領にではない」という言葉にはしびれる。全体として少し気になったというか、不思議な経験をしたのは、同じく藤本監督は『アメリカばんざい』という映画を作らられていて、同じシーンがいくつもあったこと。言わば8時間14分の『アメリカ』は大幅な増補改訂版というか総集編とでも言うべきものになっている。なお、ポレポレ東中野の上映(3月20日から公開)では5回に分けて上映されるそうだが、もし、時間がある方は8時間を一気に見ることをお勧めする。
ここで疲れたら帰ろうか、と思っていたが、それほど疲労していなかったので、『ONE SHOT ONE KILL』(こちらは1時間48分)も見た。この英語タイトルは映画を見れば分かるのだが、新兵訓練の掛け声なのだ。(日本語字幕では一撃一殺となっていた。)内容はアメリカ海兵隊のブートキャンプ(新兵訓練所)での12週間の訓練を密着取材したもの。よく取材させてもらえたなあ、というのがまずは驚き。多分、映画ファンには”リアル・フルメタル・ジャケット”と言えば通じるだろうか。(もっともキューブリックの『フルメタル』はベトナム戦争時代の設定だが。)とにかく、訓練所に入る所から出るまで上官から徹底的に大声で怒鳴られまくる。言わば、人間を、考えない、命令に反応する殺人マシーンに作り替えるようなものである。同時に見ながら気づいたのは、旧日本軍を反面教師にしたのか、時代の流れか絶対に教官が手を挙げることはなく、手を上げないようにするためにも、徹底的に大声で罵倒しているように見える。また、当然、実弾での訓練もあるわけだが、実弾の管理を徹底しているように見える。それこそ、『フルメタル』ではないが、勃発事件が起きないようにしているのだろう。話は飛ぶのだが、映画を見ながら、2004年に写真家の石川真生さんが沖縄の自衛隊を取材していて、その取材についていったことを思い出していた。その時は、卒業試験と卒業式に行ったのだった。・・・ともかく新兵訓練のを見る機会などそうそうないだろうから、貴重なドキュメンタリーだ。こちらは4月10日からUPLINKにて公開。