小熊英二著「1968」(下)をやっと読み終わった。上下巻合わせて約2000ページ。こんな大著を読んだのは初めてかもしれない。読み終わっての漠然とした感想は面白かった。著者の他の著作もそうなのだが、とても難しい題材であるにもかかわらず、とても面白く読めてしまう。今作でよかったのは、1968年前後の学生反乱を扱った書物が、ともすれば難解な左翼用語が頻出し頭が痛くなることがままあるが、この本では出来るだけ抽象的な左翼理論を避けつつ、当時の状況・心情を浮き彫りにしようとしている点だろう。膨大な文献を引用することで、一種のドキュメントとしてあの時代を描こうとしているように思える。(だから、リアルタイムに当時を経験している人にとっては物足りなく感じる部分はあるかもしれない。)ただ、著者の結論に関しては僕の中では保留である。
僕自身は1968年前後のいわゆる全共闘運動に関しては正負両方の感情を持っている。一番気になるのは、何が出来て何が失敗だったのかがあまり冷静に語られていない印象を持っている。特にその後の様々な「運動」において「運動アレルギー」とも呼べるような感情が根づくきっかけになったように思う部分もある。また、単純な話で「1968」というのは僕が生まれた年でもあるから、どういう時代だったのか知りたい、という興味もあった。
この本は著者の他の著作と同じように、「神話崩し」という面がある。だから批判も多いだろう。だけれども、だからこそ僕のような世代にとっては立体的にあの時代を感じることが出来たように思う。