『風のかたち』
伊勢真一監督の最新作『風のかたち』の試写に出かけた。このドキュメンタリー映画は小児がんの子供たちのキャンプを中心に10年にわたって記録した作品だ。話は脱線するが、この日本ではドキュメンタリー映画を作り続けるのは難しい。難しい、というのが正確でなければかなりの労力を必要とする。伊勢監督は精力的に作品を作り続けていて、去年から今年にかけてもすでに3本目だ。そして、どの作品も面白いのだから大変なことだ。そして本作。本作は真っ黒な画面に赤ちゃんの泣き声から映画が始まる。そして木々が揺れ、風の音が響き渡る画面となる。このファーストショットがとても印象深いし、後々、重要な画面となる。またまた話は脱線するが、近年、日本の劇映画は「難病ブーム」だそうで、あからさまなお涙ちょうだいを狙って、平気で人が死んでいくらしい。(らしい、というのはそういう映画をほとんど見ていない、からだけど。)『風のかたち』は、確かに小児がんの子供たちを描いているのだけど、安いお涙ちょうだいでは全くない。冒頭、伊勢さんがナレーションで語っているように、最近は7~8割は治る病気だそうだ。この映画では、同じ病を持った子供たちが、お互いの境遇を語り合い、遊ぶ姿が何度も描かれる。だからと言って、「病を克服する」というような感動の押しつけでもない。うまく表せないが、監督が等身大で子供たちに向き合った、といった感じだろうか。そして、いつにも増して、風景のショットが何度も挟み込まれる。確かにこれは風景ではあるのだけど、見ているうちに子供たちの心象風景に思えてくる。風などの自然音も、子供たちの体内で鳴っている音のように思えてくる。病を抱えた子供たちは、大変過酷な状態ではあるのだけど、映画の趣はどこかさわやかだ。そして、なんといっても、10年間の厚みがある。伊勢さんの映画は、「伊勢組」とでも呼べるような、撮影・照明・録音スタッフの方々が優秀な方々ばかりで、確かな技術に支えられて映画が出来上がっている。こうした方々と仕事ができることも、監督の力なのだと思う。僕はどこまでいっても徒手空拳だけど。ぜひ、多くの方に見てほしい。