まさかこういう日が来るとは思わなかった。サミュエル・フラー監督の『東京暗黒街・竹の家』のDVDが日本でも発売されたのである。僕にとってはいろんな意味で思い出深い映画なので、少し昔話を書いておこう。
僕が行っていた法政大学には、シアターゼロという自主上映団体があり、僕も加わっていた。ここでは、なかなか評価されていなかった映画をアメリカから買って自主上映をしていた。昔、個人視聴用に多くの映画の16mmフィルムがアメリカで販売されており、アメリカのコレクターから売りに出されたフィルムを輸入していた日本の会社から買っていたわけだ。もともとが個人視聴用だから、正規の興行ではなく、あくまでも自主上映。そんな中で、僕が入る前には「国辱映画祭」と名づけて、サミュエル・フラー監督作の『クリムゾン・キモノ』も上映していた。僕が入ってからは、ジョセフ・スタンバーグ監督の『アナタハン』を上映した。その後、念願だったサミュエル・フラー監督の『東京暗黒街・竹の家』のフィルムを入手できた。無謀にも、ちゃんと日本語字幕をつけて自主上映した。もっとも、僕はなにやらよく分からず、サミュエル・フラーのこともよく知らず、上映していたように思う。それからしばらくたって、1992年に香港国際映画祭で李香蘭のレトロスペクティブが開催されることになり、シャーリー山口の名で出演している『東京暗黒街・竹の家』も上映候補になっていた。しかしながら、FOXからはフィルムを借りることが出来なかったとかで、とある著名な方から我らがシアターゼロにフィルムを貸してほしい、との連絡があった。今から思えばだだをこねたようなものだが、単純にフィルムを送って何かトラブルになると嫌だった(例えばフィルムが没収されるとか)ので、自分たちでフィルムを運ぶことにしてくれれば貸す、という話になった。そこで、僕が運び屋よろしく、フィルムを持って香港に行ったのです。その時がはじめての海外旅行でもありました。その2年前、1990年にはサミュエル・フラー映画祭が大々的に開催され、本人も35年ぶり(ということは『竹の家』撮影以来!)に来日。僕も本人を見ましたが、かっこいい不良爺のインパクトも忘れられません。(僕の記憶に間違いがなければ、この映画祭でも『竹の家』はシアターゼロのフィルムを使ったはず。)ただ、残念ながらシアターゼロの16mmフィルムはスタンダードで、シネスコ撮影でも知られるこの作品の本当の魅力は僕も分からずじまいでした。
そのシネスコ画面がたっぷり楽しめるのが今回のDVD。あらためて、シンプルながら切れのいい演出が堪能できる。トンデモ日本、なんて語られることの多い映画ですが、まあ、そういうとこは笑って、戦後10年の東京が撮られていることのほうが今や貴重。個人的には、学生時代は気が付きませんでしたが、フランク・ロイド・ライトの帝国ホテルが一瞬映るのが、建築史的には貴重だ、と思った次第。