『へんりっく 寺山修司の弟』
僕が初めてドキュメンタリー映画『科学者として』を映画館で公開したとき、ちょっとした縁で森崎偏陸さんにチラシ・ポスターのデザインをしていただいた。自分で言うのも変だが、とても地味な映画にかかわらず、数多くの場面をレイアウトしたカッコいいチラシになって本当にありがたかった。その時はとにかく初めてのことで、森崎さんのこともよく知らず、図々しくもお願いしたのだった。『へんりっく 寺山修司の弟』という、森崎さんを描いたドキュメンタリー映画の存在を知って、見なければ、と思っていて今日、やっと見ることができた。タイトルにあるように森崎さんは寺山修司が亡くなった後、寺山修司のお母さんに請われて寺山家に入って、戸籍上、寺山修司の弟となった。映画は1974年に寺山修司が作った短編『ローラ』のシーンから始まる。この映画は客席から森崎さんがスクリーンに飛び込み、出てくる映画として有名で現在も上映され森崎さんが生で演じている。僕がまず驚いたのはこの特殊なスクリーンを森崎さん自身が作っていたことだった。この「作る」というのが本作のキーワードかもしれない。とにかく森崎さんは多彩な方で、アラーキーの写真集のブックデザインを手掛けているし、松村禎三の音楽助手を務めているし(本作では黒木和雄監督作『父と暮らせば』の収録シーンが出てくる)、数多くの映画で助監督をされているし、舞台の演出もされている。ぎょろっとした目の森崎さんが活動している様子を見ていて不思議なのは、どの仕事も大変なはずなのにどこか飄々として見えることだ。また、かつての天井桟敷の仲間や、自宅で一緒に住む山ちゃんなどと宴会をしている場面では子供のようでもある。どこか場の空気がふっと軽くなるような不思議な存在感。7年間撮影していたというこのドキュメンタリー映画はそうした瞬間をいくつもとらえていて映画自体も不思議な映画になっている。ただ、少し残念だったのは、手持ちで撮影されたシーンが多く、大きなスクリーンで見ていたら目が疲れたことだった。
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