『大鹿村騒動記』
正直に書くと、僕は『大鹿村騒動記』の予告編を見た時に、あまり興味が持てなかった。まず、タイトルにピンとこなくて、田舎歌舞伎が題材と知って、なんだか今の映画のように感じなかったからだ。もうひとつ正直に書くならば、先日亡くなった原田芳雄さんの熱心なファン、でもない。だけれども、うかつなことに遺作となった『大鹿村騒動記』が久しぶりの主演作だったことに気付いた。だから見なければ、と思っていた。この映画を見て、久しぶりにいい気持ちで映画館を出ることが出来た。こんな気持ちになったのは、本当に久しぶりだと思う。話のあらすじは省きますが、とにかく主演の原田芳雄を筆頭に、出演者の方々のアンサンブルが気持ちいい。そのせいだと思うのですが、多くのショットは役者の絡みになっていて、驚くほどアップが少ない。おおざっぱに言えば(数えていたわけではないので、全く正確ではない)原田芳雄のアップですら3カットほどだ。だが、ラストカットのアップも含めて、その3カットの顔がもう、本当にいい。これも僕の勝手な想像なのだが、監督の阪本順治は役者の演技を少し抑制的に演出したのではないか、と思っている。なぜかと言うと、本作のような題材では、一歩間違うと役者が暴走して時として内輪受け的な笑いになってしまいかねないこともあるから。その点、本作での笑いは嫌みなく気持ちよく笑える。そういう映画も久しぶりだった。
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