「甘粕正彦 乱心の荒野」
単行本で出ていた時にも気になっていたのだけど、結局読まなかったのだが、文庫本で出たので「甘粕正彦 乱心の荒野」(佐野眞一著)を読んだ。甘粕正彦と言えば、大杉栄らを殺害した、極悪人というイメージが強いが、著者ははたして本当にそうか、という疑問を解き明かしていく。著者の結論から言えば、本当は組織的な命令があった上で行われたことということになり、甘粕はスケープゴートにされた、ということだそうだ。そして、罪を背負ったことが、後年の満洲国での複雑な活動に影を落としていく。多くの資料、多くの関係者に丁寧な取材をして人物像を浮かび上がらせているのは労作と思うのだが、話の運び方にやや読みにくさがあった。また、他の本を読めばいいことなのだが、もう少し満映時代のことを読みたかった、という気がしないでもない。それにしても、甘粕が青酸カリを飲んで自決したのを見つけたのが、かの内田吐夢監督なのだ。(内田吐夢監督は満映に入ったが、映画は1本も撮らなかった。けれども、その後、長らく中国に留まり中国人に映画指導をしていたらしいのだが、詳しい活動内容ははっきりしていない。)
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