『ANPO』
時には「労作」という言葉がふさわしい映画が存在する。今日見た『ANPO』(監督:リンダ・ホーグランド)というドキュメンタリー映画がそうだった。今年、2010年は日米安全保障条約改定から50年。本作は1960年の反安保闘争から現在までを主に美術家・写真家がどう向き合ってきたかを描いた作品だ。何が労作と感じたかと言えば、まず、映画の中に出てくる絵や写真の多さ。証言する人の多さ。挿入される映像の多さ。約90分の映画なのだが、その情報量たるやかなりのものになる。誰のどういう作品を取り上げるかだけを考えてみても膨大な作業量になるだろう。加えて、多分、長い時間聞いたであろうインタビューを長々と使うことなく、するどい切れ味で短くつないでいく編集は、まるでジグソーパズルのようで、もし僕が編集をしたとすれば気が狂うと思ったほどだ。僕は1960年前後の美術のことはあまり分からないのだけど、この映画に出てくるような作品が描かれていたことは知らなかったし、意外と現在語られていないような気がする。そうした意味でも貴重な映画だ。映画を見ながら思ったのは、アーティストが社会とどう向き合うのか、という、普遍的なようでいて、つい、最近は忘れられがちなことだったりする。ちょっと面白いな、と思ったのは映画で紹介される絵画の多くが、どこかシュールレアレスティックな作品が多く、当時の傾向だったのか、「安保」という政治的な題材を表現する方法として選びとられたものなのか、気になった。多くは人の疎外感を重く表現しているように見えた。ただ少し引っかかったのは、若手の作品はそういうことはなかったのだが、1960年前後の作品に僕はどこか距離感を感じたのも事実。それでも、もしかすると、このドキュメンタリー映画に興味を持つ人たちは、かつて安保反対を闘った世代の方なのかも知れないし、政治的に「安保」に関心がある人かもしれないけれど、僕は若いアーティストにも見てほしい、と思った。とても遠い時代のように思えるかもしれないけれど、今も「安保」は存在するのだから。そうそう、映画を見ながら思っていたのは、この映画で紹介されている絵画や写真の展覧会がどこかで企画されれば面白いのに、と思った。最後に、映画に出てきた写真家の石川真生さんの写真「フェンス」は、僕はまだ見れていないのだけど、近々写真集が発売されるようなので楽しみ。
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